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なないろめがね

星降り注ぐ夜の、小さな出来事

「ちょっと寄りたいんですけど、夕方時間ありますか?」
そう連絡があったのは、一躍時の人となった「Hajime」の米田シェフ。
忙しい中、どうしたんかな?・・・そう思いながらシュクレで待っていました。

その日は肌寒く、空にはオリオン座流星群が見えるという日。
生憎、ちょっと曇っていたので、実際大阪から見えたのかな?
夕方の予定が渋滞に捉まり、陽は暮れて辺りは暗くなり、
雲間からは幾つもの星たちが、チラチラと遠慮がちに輝き始めていました。

「米田さん、来られました!」
二階で作業してた僕をスタッフが呼びにきてくれ下に降りてみると、
シェフとマダムのお出迎え。
「どうですか?落ち着きました?」
アキュイールさんやFujiyaさんなどもそうですが、
最近の最初の挨拶は大体こんな感じになってしまってます。

ミシュランの反響で電話が鳴り止まなかったり、
予約が殺到したり、店頭での対応にも追われたり・・・、
予め準備と対策を練ってたのに、実際はそれ以上だったようです。
少し落ち着いてきたようですが、どこもバタバタで大変なようですね。
その中でもHajimeは郡を抜く注目度、うちに来てる暇なんてないはずです。
シェフとは当日電話で話した後、先日やっと直接会うことができ、
お互い何も言わずに歩み寄り、ただガッチリとハグを交わしました。
マダムはパンを取りに来ていただいたときに、いつも話をさせてもらってます。
なので何の用かもわからずにいた僕に、赤い袋が差し出されました。

「ん?なんですか、これ。」
「これを渡しに来たんです。ずっと渡したかったものなので」
「どうしたんですか?開けてみてもいいですか?」
誕生日でもなんでもないし・・・・何かプレゼントなんていただく理由もないし・・・・、
そう思いながら受け取った赤い袋の中には、立派な赤い箱が。
そう、バカラの箱です。
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「ん?なんで?なんで?」
そう思いながら箱を開けてみると・・・・
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一瞬で米田シェフが言ってくれてた言葉が、流れ星のように頭をよぎりました。
「三つ取ったら、一つはシュクレにあげたい」
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一気に前身の力が抜けへたり込んでしまそうな身体を両膝に手をつき支えはしましたが
しばらく顔を上げることもできませんでした。
全く動けなくなるくらい・・・・身体が硬直するくらい心が震え、
いろんな想いや、いろんな言葉がうねるように溢れてきましたが、
何一つこの場に相応しい一言を口にすることはできませんでした・・・・。
「シュクレのパンが無かったら、うちは三ツ星は取れませんでした。
だからそのうちの一つを岩永さんに渡したいんです」
その言葉だけで嬉しかった・・・・。
うちなんて何の力にもなっていません。
ただただ彼の精進あっての、もらったのではなく掴んだ三ツ星だと思います。
それでも、そう言ってもらえて嬉しかった・・・・。
本当にそれだけで嬉しかった・・・・・。
なのにこんな・・・・。

搾り出すようにやっと言えた一言は、
「パン屋になって・・・・本当に良かった・・・・・・」

僕は専門学校も行っておらず、店も転々としていて、
横の繋がりも少なく、頼る人も縋る人も少なく、
有名シェフらのように、何かの賞の受賞歴も一切なく、
いわゆる肩書き何てものは何一つ持ち合わせておらず、
市内や東京で勝負するような勇気も財力もなく、
辺鄙な場所で隠れるように細々と始めた店ですが、
ただただ自分の想いだけで今に至っているわけです。
そんな僕に、この日もらったこの星は、
今までの自分を表彰してもらったかのようでした。
何賞でもありません。選考理由も書いてません。
ただ、そのどんな賞よりも嬉しくて、
どんな賞よりも輝いていて、
僕の心の屈折した暗い部分に、
決して進む道を誤らないように輝く北極星のように、
小さくても強い光を差し込んでくれたかのようでした。
「今のままでいいんですよ」
そう言ってもらえた気がしました・・・・。

強烈に忙しい中、こんなことにわざわざ時間を割いていただき、
言葉だけでなくこんな素敵なプレゼントまでいただいて・・・。
「家宝」として、末代まで大事にさせていただきます。
ちなみにこれ、わかってるとは思いますが、
ミシュランから渡されてるわけじゃありませんからね。
こんなのそれぞれの星の数配ってたら、ミシュラン破産しますから(笑)
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by monsieur-enfant | 2009-10-22 07:39 | シュクレクール