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なないろめがね

プレッシャーと言う名の「栄養分」。

先に言っときます。今回、長いですよ!(笑)

歳を重ねたり、ポストが上がったりしてくると、
なかなか毎日の仕事にプレッシャーを感じることも少なくなります。
もちろん重圧は変化し、違った形で圧し掛かってはくるものの、
発信したり表現したりする仕事のほうが立場的に優先されてきます。
今更、トップの人間が委縮してやっているのも問題で、
作り手が楽しんでないものが、受け手を楽しませれるわけはないとも思います。
じゃあ適当にやってるかというと、もちろんそうではなく、
緊張は責任という言葉に名を変えて、毎日厨房に立ち続けているわけで。

たった一つのイベントの日をを除いては・・・・ですが。

そのイベントの名は「ビストロの会」。はい、名は捻りもありません(笑)
その名の通り、捻らず真っ直ぐに「本場のビストロ」を大阪で表現しようやないか!
という同志の集いです。
経緯をよく知らないので、なんで自分が声をかけられたのかはわかりませんが、
「フランスとは、テーブルで評価されるもの」という自論の中で、
その一アイテムとして声をかけてもらったのは意気に感じる部分でもあります。
ちょこちょこっと、ここでも書いてますので、ちらっと知ってる方はおられるとは思いますが、
この会も今回で5回目を迎えることになります。
考えてみると、僕が唯一属してる集まりなんですよね。
理由は一つ。個々の意識レベルの高さです。
和歌山某レストランのシェフを筆頭に、DAiIGAKUの他谷シェフ、
ヌーパピの川田シェフ、和歌山某レストランのパティシエに、
前回はメツゲライ・クスダの楠田シェフも参加してくれました。
ま、ついでに岸部某パン屋さんです(笑)。
本当に熱い心を持った人間が集まってます。
チームとして、もちろん調和もしていきながらも、
各々が各々を意識し合って過ごす、とても緊迫した時間となります(笑)。
「対お客さん」はもちろんですが、これほどまでにプレッシャーのかかるチームメイトは、
他にはいないですね。息が詰まりそうになりますもん(笑)
でも幸せやなぁ・・・と、前回くらいから思えるようになりました。
いや、ホントに僕、馴染むのに時間かかるんです。根が卑屈ですから(笑)。
なかなかこんなプレッシャーの中でする仕事は少なくなってきます。
それだけで十分有難いと思っています。ですからそれ以上のプレッシャーは望みません。
ですから・・・・それ以上のプレッシャーは望まないって言ってるのに~!!

「メゾン・ブーシュは岩永さんにやっていただくことになりました」

「・・・・・・・・・は?」

パン・・・・・だけじゃないの? ってか、・・・・え? 整理がつきません。
・・・・そういえば、打ち合わせの時、東京行ってて参加できへんかったんや。
わかった!打ち合わせに参加できなかった罰ゲームやな!?(笑)
メゾン・ブーシュ、いわゆるアミューズとしてアペリティフと食すスターターみたいな一皿。
だいたい一口で完結するようなものです。
はい、それは知ってます。知ってますけど・・・僕、ブーランジェなんですけど・・・・。
そりゃ、たまにこないだのピクニックみたいな料理染みたことはしますよ。
でもそれはシュクレ主催のお祭りのようなもの。
これだけのメンツの揃うキュイジニエを前に、
しかもそれなりのお客さんが揃う、それなりの人気イベントやのに・・・。
あかん、過度のプレッシャーで吐きそうになります(笑)
そこから若干、精神的に引き籠り状態になったのは言うまでもありません・・・・。

何度、断ろうと思ったことか。いや、マジで。
だって、なんちゃってのイベントじゃないですからね。
責任はもちろん、クオリティだってそれ相応のもので満足してもらわなきゃいけません。
普段やらないのにやった珍しさなんて望まれません。
求められるのはお客さんを満足させるクオリティのみ。
どの辺りのレベルを狙わなきゃいけないのもわかってます。わかってますとも。
でもね、産まれてこのかたメゾン・ブーシュ30人前なんて作ったことないんですけど!!

ある日のこと、
「・・・・・パン屋の厨房ではねぇ・・・やっぱり、かなり無理がありますよねぇ・・・」
と、同意を求めに行ったヌーパピさんでは、
「そうなんです。無理じゃないかって話はあったんですよ。でも岩永さんなら・・・・
ってことで決まったんです。」と、大学さんに言われ~の~、
切羽詰まりに詰まって、会発足以来初めて相談の電話を和歌山にしたときには、
「王道的なメゾン・ブーシュって、グージェールくらいしか思いつかないんですけど・・・」
「良いと思いますよ、グージェールで。岩永さんなりの。」とか言われ~の~、
・・・・・あかん、また吐きそうやわ(笑)

無理やわ、やっぱり。その辺の料理人相手ならまだしも・・・・。
でも断ったら何も生まれないし、受けて迷惑かけても申し訳ないし・・・・。
ってか、そもそも何で僕がアミューズなんかやらなあかんのやろ・・・、
あ、そっか、罰ゲームか。なら、しゃあないな。いやいや、しゃあなくないし!(笑)

結局、腹くくりました。
僕が断ったって、キュイジニエにとっては大して難しくない仕事。
そんなに負担が増えるわけではないでしょう。
でも何が嫌かって、「やっぱり無理なんや」って思われるのが嫌ですからね。
グージェール・・・・・・を僕なりにってのも限界があります。
人それぞれ違うのはわかりますが、個性や驚きを生む食べ物じゃないですからね。
僕も作れますけど、僕じゃなくても作れますし。
僕が作る意味があるもの・・・・となるとパンなんですよね。
でも、「パン屋だからパン」って発想は寒すぎます。
そう思われるのは絶対に避けたいわけです。
パンしか出来ないと思われるのは癪に障ります。
やるからには、予想を超えなくては意味がありません。
コースの流れを見て、バランスも考えて、とにかくやれるだけやってみることにしました。
大袈裟なように思われますが、
僕はキュイジニエを尊敬してます。
大好きな職業であり大好きな人種なんです。
だからこそ本来は僕みたいなパン屋風情が踏み込んだらあかん部分やと思いますし、
やるからには絶対コケるわけにはいかないんです。

「軽いジャガイモのパン。グージェールのイメージ。
 セロリラブとシェーブルのムースを添えて。」
うちにあるジャガイモのパンを小さく成形し、浅く浅く焼きあげて土台をつくります。
焼き上げてすぐに、
薄くスライスしたエメンタールチーズを上に被せてサッと火を入れます。
薄いエメンタールが溶けて周りを包んで、グージェールのイメージを付けます。
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こんな感じ。

それに合わせるのは、まずはセロリラブ。根セロリですね。
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皆さん馴染みないかも知れませんが、フランス料理ではポピュラーな食材です。
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剥くとこんな感じ。セロリ臭のする根菜やと思ってもらえるとわかりやすいかと。

それをひたひたの牛乳で炊きます。
やわらかくなったところで、シェーブル投入。
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シェーブルは、独特の酸味を持つ山羊のチーズ。
これを鍋に入れて溶かしてからハンドミキサーで攪拌します。
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それを3度裏ごしして出来上がったピュレがこちら。
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軽いながらもエメンタールが被さりしっかりとした味のパンの母体に、
爽やかな香りと根菜の温かみのあるセロリラブと、
独特の酸味と乳製品のコクを持つシェーブルを合わせたムースを、
半分にカットしたグジェールの間に絞って提供します。
完成品は残念ながら画像はありません。
その時間、まだシュクレで仕込みの続きをしてました。
「あ・・・・もう食べてるんちゃうの?」と、時計をを見つめ心臓バクバクさせながら。

結果は好評でした。
某和歌山のシェフにも「二ッ星でも出せますよ」と言ってもらえました。
達成感はありません。本職ではありませんから。
あくまで結果はたまたまです。ですから、むしろ「安堵」でした。
迷惑掛けずにすんだ安心感。ホントにホッとしました。
ここ数年間で最高のプレッシャーをありがとうございました(笑)

「芸は身を助ける」じゃないですが、パン馬鹿じゃなくて良かったです。
パンしかやってなかったら、とてもじゃないけど出来ませんでした。
ちょこちょこ食べに行ったりしてたことが、ちょっとは生きましたね。
うちのスタッフによく言うんですが、
「出来る・出来ない」には能力が必要やと思います。
でも「知ってる・知らない」は能力差ではありません。
あるのは好奇心や向上心の差。
知ろうとしたかしてないかの小さな差が、
世の中の決定的な差を生みだすことに繋がるとまで僕は思います。
今回僕を助けてくれたのは「知ってた」という些細なこと。
でもその些細な「知ってた」の中には、
食材や調理法もそうですが、
どんなレベルの仲間との仕事なのか、
どんなレベルのお客さんに提供するのか、
そういうパン屋ではわからないことも含まれてます。
自分が客として実際お店に通うことによって感じれてたことが一番役に立ちました。
後は、旨いものを知ってるヤツが、旨いものを作るんです。
以前も取材があって「今更そんなこと言ってるんですか?」と突き返しましたが、
パン屋のお菓子、菓子屋のパンみたいなね、
未だに菓子屋のほうがクロワッサンは旨いみたいな、
迷信じみたこと言ってる化石みたいなライターさんも存在しますからね。
現にパン屋より旨いクロワッサン売ってる店があるなら、
それは「菓子屋だから」ではなくて、
パン屋より旨いクロワッサンを作る人が作ってるから旨いだけの話。
旨いパンを知ってる料理人が作るパンは、
ろくに旨いものも知らずに作ってるパン屋のパンより間違いなく旨いし、
適当に想いもなく作ってる料理くらいなら、
旨い料理を知ってるパン屋に喰われてしまうでしょう。
「何屋だから」なんて概念はもう古すぎます。「誰が」の時代です。
旨いものを知ってる人間が、最終的には旨いものを創り上げるんです。
業種に縋りついてるうちは、見えるものも見えなければ知れるものも知れないでしょう。
そんなこんな、ややこしいことを書きましたが、
そんなこんなをぶち抜くのに必要な要素は実はとてもシンプルなこと。
単純に、尋常じゃない好奇心と探究心、ただそれだけです。

さ、かなり脱線しましたが、もとの話に戻りますね。
かなりのプレッシャーの中での仕事でしたが、
この会、皆が毎回こんな感じなんですよね。
持ち場が終わると、「はぁ~~、終わった~。」
それぞれがそれぞれの店でシェフをやってる中で見せる、貴重な一瞬です。
それくらい、この会はプレッシャーかかるんです。お客さんにも、チームとしても。
ただのコラボイベントではありません。
喜ばすだけじゃなく伝えなきゃいけないことがあります。
お互いが、「最低限、ここのラインはクリアしてくるやろ」という信頼関係の中で、
いつもバラバラに働いてて滅多に集まれないメンツが集います。
その中で、個々がバラバラに主張するのではなく、
あくまで「本場のビストロ」を伝えるという一つのメッセージの下で動きます。
じゃあ、本場のビストロって何?ってなりますよね。
答えは一つではありません。
あ、その前に、打ち上げ・・・ではなく「反省会」の様子を。

テリーヌとバロティーヌ
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テリーヌは、コルベール、豚、鹿、フォアグラ、豚血と聞いてたんですが、
変更になったんかな?バロティーヌはもろ好み。猪の各部位を使ってます。
添えてあるソースも旨いっすね。

ブレス産のプーレのロティ 
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足にキラリと光る、ブレスの証。
何度か食べてきたブレス産の中では一番旨かったなぁ。

鹿のハツ
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鹿の心臓ですね。絡まるソースが秀逸です。

だいたい月曜に行われる会なので、スタート時には間に合いません。
前回は最期の挨拶にも間に合わなかったんですが、
今回はちょうどデセールの時に到着しました。
ですので、いつも料理も見れないし、お客さんのリアクションもわからない、
なによりパンがどうだったのかも知らないまま、お客さんの前に挨拶に立ちます。
またまたここで緊張(笑)。
そんな僕に、ちょっと余ってる分をこうして皿に盛ってくれます。
メニューでしか見てない料理の確認と、
自分が描いたイメージとの味の擦り合わせとして貴重な時間です。
そして何よりこの時間で交わされる会話が良いんです。
各々が感じたことを議論する場。
議論とは、思想を持たない人とは交えれないものです。
その議論が出来る場であることが、たまらなく嬉しいです。
思想を持った人たちと言葉を交わせるのが嬉しいんです。
意見なんて違って当たりまえ。
もともと答えが一つのものに向かってるわけではないのですから。
一回一回、やれることをやって、やれなかったことを反省し、
その一回一回が意味を成していけばそれでいいと思います。

前にも書きましたが、
僕はレストランよりもビストロのほうが日本人が再現するのは難しいと思っています。
それは味だけではない要素が絡み合った、まさしく「フランスの景色」だからです。
ビストロの料理はその時間や空間を演出するものであり、
且つ食欲を満たすものでもあります。
日々の労働や人間関係の中で「活力となる場所」が、僕にとっての「ビストロ」なんです。
それを理解したお客さんが主役であり、その景色の最重要要素になると思うんです。
そこが一番難しいんです。
良い箱があっても、良い料理があっても、良いお客さんに使ってもらってナンボなんです。
店側のもてなしにより展開していき、
ある部分、店側に委ねて非日常を楽しむ「レストラン」とは全く違う「フランス」です。
その分、フランスのリアリティがそこにはあり、
それこそ「文化」そのものがそこにあると思うんです。

先に書いたように、その「ビストロ」という答えは一つではありません。
何がビストロなのか、どの要素を満たすのか省くのか、
各々が描くビストロがあり、言葉は同じでも形にすると違ったりもします。
尚且つお客さんを満足させないといけない最低限の責任はありますし、
興行的に成功しなくてはいけない側面もあります。
自分たちが頭でやってる店でさえ、現状に満足してるシェフは一人もいないメンツです。
ポッと集まった会で簡単に満足できるわけがありません。
それで良いと思います。完結しないから次への課題を見つけられるし、
挑むものがあるから熱くなれるんやと思います。

正直、ヌーパピさんが出来たとき、
僕の中でこの会の存続の意味がわからなくなったことがあります。
本場のビストロを体現する店が現れたのに、
「ビストロの会」をする理由が、僕的に見えなくなりました。
それこそコラボイベント的なことなら僕は時間を割く必要はないと思ってます。
その時は、抜けようかとも思ったものです。
ま、抜けたところで大した影響はなかったのかも知れませんが、
意味を感じれない曖昧なものは、やっても何も生まれませんからね。
ただ、今は意味を感じるようになりました。良いチームやなぁとも思います。
その料理人らのチームの中のパン担当として従就できる時間を幸せに感じます。
何が出来るかはわかりませんが、何か出来るような気がします。
何が正しいかはわかりませんが、答えは一つではないのですから、
追い求めることに意義があります。
このメンツでしか出来ないこと・・・・というか、
このメンツでしか分かち合えないことが、きっとその先にあるような気がしてなりません。
それを見てみたいなぁ・・・って思います。

ただし・・・・以後、パンだけに専念させていただきます(笑)
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by monsieur-enfant | 2009-11-16 01:41 | シュクレクール