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なないろめがね

「収穫」

昨年末、小雨降る中行った小麦の種まき
あれから春の麦踏み(ほぼ陶芸体験でしたが・・・)を経て、早や半年が過ぎました。
今年も不安定な気候に影響を受け、あまり収穫は多くないそう。
早い梅雨入りもあり、知り合いの農家さんは大麦が全滅したと聞いたし、
廣瀬さんのディンケルも10分の1くらいしか発芽すらしなかったようです。
改めて、農業って難しく厳しい仕事だと思い知らされますね・・・。

そんな中、僕らの蒔いた種は順調に育ち、
みんなで行く刈り入れを前に一部先に刈らなきゃいけない箇所が出てきたとの事。
廣瀬さんが刈っときますと言ってくださりましたが、
ずっと僕らが蒔いた小麦を世話してもらってますので、
せめて収穫くらいは自分の目で全部見たいものです。
来週みんなで刈り入れする場所を除いた一部の成長の早い小麦を刈るために、
一人で日野町に向かったわけです。

それは良く晴れた日の午後で、
待ちに待った収穫前の小麦との対面を楽しみに、
ウキウキしながら車を走らせる僕の気持ちを表すかのように晴れ渡った空でした。
張り切って麦わら帽子かぶって、
気合い入れてお気に入りの「火拳のエース」のユニクロTシャツ着て、
途中まではめちゃめちゃテンション高かったんですけどね。
そう、途中までは・・・・・・・。
ま、道中なにがあったかはさておき、
着いた時には、このテンション。
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完全に心を閉ざした人間の目ですね(笑)

廣瀬さんに着いたことを電話しても繋がらなかったので、
畑まで一人で歩いていくことに。
道中、ワンワン吠えてくる犬2匹に、
「なんなら気が済むまで噛ませたろか?」
と、半笑いで歩み寄るくらい、まだ世捨て人でした(笑)

でもね、ふと目をやった道端から、こっちに微笑みかけてくるわけです。
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こっちなんて、きゅうりの赤ちゃんですよ。
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陽射しを反射しながらチロチロと流れる小川があったり・・・。
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世を恨み人を憎み、凍てつき荒みきった心が、
草花によって徐々に癒されていきます・・・・。
蠢いてた汚れた感情を草花に浄化されながら歩いていると、
気がつけば慈しみに満ちた眼差しを湛えた柔和な表情の自分がいました。
焦って隠しましたが、たまにしちゃうんですよね、こういう表情。
イメージ壊れるから嫌なんですけど、たまに気を抜くと出ちゃうんですよね。
ま、本当は「Love&Peace」精神の塊みたいなヤツなんで、
今後はそんなキャラでお願いします。

ちょっと回復したころ、廣瀬さんが戻ってきました。
車を軽トラに乗り換えて、颯爽と登場。
その荷台に乗り込み、小麦畑まで移動します。
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やべ・・・、電車でも後ろ向きの座席だと気持ち悪くなるんだった・・・(笑)

さ、畑にはすぐ到着です。
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立派に育ってますねぇ・・・。
前回なんて、チョロチョロってな感じでしたのにね。
その間、一度くらいは見に来れると思ったんですが来れず仕舞い。
ここまで全部まかせっきりになってしまいましたが、
ずっと見守り育ててくれた廣瀬さんに感謝。
日野町の大地やお日様、降った雨にも感謝ですね。
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にしても、こんなに畑が似合う人、いますか?(笑)
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農林61号はほぼアウト。
今日刈り入れるのはライ麦と少量のディンケル。
ライ麦はテストみたいな感じでしたが、廣瀬さん曰く、
「北海道に負けないくらいの品質」とのこと。
根元から鎌で刈っていきますが、廣瀬さんも初めてだそう。
「普通、手で刈らないですよ(笑)」と言われましたが、そりゃそうですよね。
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鎌使いも難しくはなく、ザッザッと刈り取っていく音も気持ち良い。
カンカンと照りつける陽射しにあっという間に汗も溢れて来て、
「俺、収穫してる!」って嬉しくなってきてしまいます。

根っこの方には鳥が編んだ巣があったり、
ザワザワと逃げまどう虫たちがいたり、
ホント、自然の一部を借りて自然の中で営まれるのが農業だと実感。
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いろんなことに「ありがとう」です。

さ、伸びた一部の刈り入れは完了しました。
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ただ、ここで疑問が。
「残り、あと2週間も持ちますか・・・?」
この日、刈らなかった小麦たちも、そこそこの背になってましたからね。
このまま晴れが続けば、すぐ刈れるような雰囲気。
なので急遽、2週間後だった残りの刈り入れを来週に変更。
ただ、来週、雨がね・・・。
ここで雨が続くと収穫出来ないんですよ。
更に雨の後も晴れなかったら虫が湧いてきちゃうんですよね。
そうなると全部アウト。
本当に農業は厳しく難しい・・・。

さ、刈り取った小麦を荷台に乗せて、
来週一緒に脱穀するために一時避難させます。
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ちなみに、これだけの量で小麦粉にするとどれくらいの量になると思いますか?
・・・・正味300gくらいなんですって。

ハウスの中に小麦を並べたら、奥には刈り取った後に植えるゴマがスタンバイしてました。
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これ、小さな一区画に一粒ずつ種を植えていくんですって。
更に、「これ、畑には機械で植えて行くんですよね?」と聞くと、
「いえ、機械もってないので、もう少し育ててから手で植えていくんです」
・・・・・・、
どっかに使ってない機械ありましたら日野町の廣瀬までお願いします(笑)

「ちょっと水あげますね」と、ハウスの裏側へ。
さっきの小川・・・というか用水路が裏にも流れてるんですね。
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ハウスの周囲には散布用のスプリンクラーが何か所かあるんです。
用水路から組み上げたお水をスプリンクラーを使って撒くわけですね。
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気持ち良さそう!!
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さ、それからディンケル小麦がそこそこ育ってる別の畑に向かいました。
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これでも発育は良くないんだそう。
今年も「ディンケル小麦」として小麦粉になるのは多くはないみたい。
農業自体がシビアになってくる気候の中で、
更にシビアな品種の栽培に挑んでるんですからね・・・。

あ、隣の田んぼなんですが、何かが横切った跡があるでしょ?
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これ、猪です。
鹿も出れば猿も出ます。
田んぼの中にはオタマジャクシもウヨウヨいます。
アマガエルもそこらに跳んでました。
そして、そこに人がいるんです。
共存なくして生存は有り得ないんですよね。
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いつのまにか影がこんなに長くなってきてました。
そんななか廣瀬さんと話してたことは、「距離」のこと。
日本は作り手と生産者との距離が、あまりに遠く感じるんですよね。
ヨーロッパだって、生産者との実際の距離は日本より遠いところも多いでしょう。
でも、存在としての距離は、もっともっと近くに感じてるんです。
フランスだってパリなどは「芸術の都」などと形容されますが、
実際は完全な農業国です。
そしてそれを消費者も含め誇りに思ってるような気がします。
パンの向こうに小麦農家さんを想い、
牛乳やチーズの向こうに酪農家さんを想い、
肉や野菜にだって、それぞれ生産者と近い距離で生活してる気がするんです。
でも日本ではそれを感じません。
高度経済成長を支えたのは、
表向きには企業戦士と形容された方々の頑張りがあったからだと思います。
でも、いつの時代も変わらず大切なのは、
第一次産業に従就してる方々の頑張りだということを忘れてはいけないと思います。
僕らは食糧を「いただいてる」んです。
材料を「いただいてる」んです。
じゃなきゃ自分で漁に出たり狩りに出たり、
家畜を飼育したり田畑を耕したりしなきゃいけません。
それを代わりにしてもらってるおかげで、
僕らは食べるものに心配もせず、呑気に好きな仕事に邁進できるわけです。
なかなか暑くならない春先にやきもきしたり、
早く訪れた梅雨に生活を脅かされたり、
晴れるか降るかで生活が左右されたり、
そんなこと日常にないわけでしょ?
とりあえず空調の効いた会社に出勤さえすれば、
月末には自動的に給料が発生するような、
そんな他人任せな仕事は第一次産業には絶対に有り得ないんです。
そして僕ら作り手にしてもそうですよね。
小麦を作るところからではなく、パンを作ることに専念させてもらってます。
なのに小麦を「材料」としか思えない作り手がほとんどです。
「農作物」だと認識してるお店が何件あるでしょうか?
そういう教育を受けてる若い子らが何人いるでしょうか?
専門学校で畑まで何度も足を運んでるんでしょうか?
技術より教えなきゃいけないことが、この国にはたくさんあると思います。

今、廣瀬さんが持たせてくれた刈った小麦を店内に束ねて飾ってます。
そして先月から、北海道でお世話になってる製粉会社さんの発行してる小新聞を、
うちでプリントアウトしてコピーして店頭にて紹介することにしました。
すべてが生産者ありきであること、
そこに少しでも想いを馳せてもらえるように僕らが出来ることは、
こんな小さなことしかありませんが、
受け取った皆さんがその小さなものを大事に感じてくだされば嬉しいです。

来週、無事に収穫できたら、
今回刈り取ったものと合わせて脱穀し製粉し、
極々少量になるかもしれませんがパンにして皆さんに食べていただきたいと思ってます。
その際にはまた廣瀬さんも来てくださるでしょうし(笑)、
いろんな話をしていただければ、
消費者と生産者を繋ぐ立場の僕らとしても、
こんなに嬉しいことはないですよね。

「日野町シリーズ」を楽しみに読んでくださってる方々、
来週、ついにクライマックスですのでお見逃しなく・・・。
by monsieur-enfant | 2011-07-02 02:22 | 滋賀県 日野町 廣瀬さん