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なないろめがね

種は、今新たに蒔かれたばかりで。

7月31日、日曜日。
昨年から始まった、日野町の農業家、廣瀬さんとの「小麦ワークショップ」。
過去4度、日野町で行われたワークショップも、
遂に舞台を岸部に移して、フィナーレの時を迎えました。

思い返せば一通のメールから始まった廣瀬さんとのお付き合い。
実際に日野町に足を運び、畑を前に語り合ってから1年が経ちました。
その廣瀬さんを招いて、いただいたディンケルを使ってパンを作り、
皆さんに食べていただいたのは、8月8日のことでした。
その日、お客さんに提供しながら思ったことは、
以前、美瑛に行った後に思ったことと同じことでした。
「見てもらったもの、そのものをパンにして食べてもらいたい」
何とか背景を知ってもらいたいと訪れたり紹介してはみたものの、
結局、見てもらったものとは別のものを提供してるわけです。
勿論、普段見たり知ることのない生産者や現場を思い浮かべながらの仕事は、
いつもの仕事とはまた違う想いで生地に接する機会にはなりましたが、
何か、ストーリーが途切れてしまってるような気がしてたんです。
無理な話かも知れませんが、見て触れて感じて、それをお客さんにも見てもらって、
そのものを粉にし、パンにし、「これがあのときの・・・」というストーリーを、
途切れさせることなくお客さんへと直結させてみたかったんです。
その想いを叶えてくださったのが、廣瀬さんでした。
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今回の粉には、ディンケルの他に、
一緒の畑に蒔き収穫した、ライ麦と農林61号も混ざってます。
その割合はわかりません。なので、全く同じ粉はもうできません。
そんな「最初で最後の仕込み」でした。

粉は「粉」というより「おがくず」のように粗くフカフカとした粉でした。
その粉が水を吸い、次に見せた表情は、ボソボソとしたこんな表情。
種は、今新たに蒔かれたばかりで。_c0116714_155498.jpg

ミキシング中なので見にくいですが、何となく伝わったでしょうか?
その後、粉は「もっとちょうだい」と水を求めてき、
生地はどんどんムチムチしてきました。
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そこに、残念ながらパン用の粉には上手く育たなかったディンケルを、
発芽させ栄養価を高めた発芽ディンケル小麦の玄麦を加えました。
練りこむ前に塩茹でして、冷水で一気に冷やしてから水気を切ってます。
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量の少ない粉から、出来るだけ多くの方に主旨を崩すことなく渡すことはできないか、
そう考えて、発芽ディンケルを玄麦のまま練りこむことにしました。
粒のまま練りこむことで、麦そのものを噛むという行為もしてもらえますしね。

そして、練りあがった生地がこちら。
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そして1個100gに分割し、丸めていきます。
大体、100個ちょっとは取れたかな?
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それを成形していくんですが、
ここからは、仕込みの最初から厨房に呼んで一緒に見届けてもらった、
モンテベロのスタッフも参加します。
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勿論ですが、普段パンなど作ることのないモンテベロのみんな。
だからこそ自分たちの手で成形し、自分たちの手で焼き、そしてそれを食べ、
種蒔きからの時間を完結して欲しかったんです。
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わからなくならないように、名札を作って目印に。

そして当日、廣瀬さんが到着する時間に合わせ、窯に入れます。
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種を蒔き、芽吹いた麦を踏み、金色に真っ直ぐ育った小麦を刈り、
麦から穂を外し、脱穀し、石臼を使って製粉してもらい、
そして、その過程をブログで皆さんに報告し、
推移を見てもらってた「そのもの」をパンにし、お客さんに届ける。
僕にとっては願いが叶う夢のような日であり、
1年かけたプロモーションの完結の日でもありました。、
ま、大袈裟に言ってますが、
何の完結の日でもなかったことは終わってから実感しました。
結局、「こうしたんだからこう思って欲しい」と思うのは僕のエゴであって、
体感したみんなが同じように思うことなんてあり得ません。
思ってくれる人は些細なことからでも感じてくれるし、
思えない人は何をどうしたって感じれない。
だから、「完結」なんてとんでもない、そう思ったんです。
今回の試みは、その最終日に当たる今日の日は、
そして、その全ての総決算であり象徴でもあるこのパンは、
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まだ何の完結にもならず、
むしろ、今やっと種を蒔けたに過ぎないのかも知れません。
その種は、みんな同じように発芽するわけもなく、
それぞれがそれぞれ、違った心の土壌に蒔かれ、
芽吹き育てるのか、はたまた枯らしてしまうのか、
それは受け取った各自の手に委ねられているわけです。
なので今日の日の手応えがどうとか、
1年のプロモーションに値する結果だったかどうだとか、
そういうことではなく、
「きっかけ」という一つの機会を作れたかも知れないということに、
今までの意義を見出さなくてはならないんだと身に沁みました。
長かった「小麦ワークショップ」を経て何か感じてくださった方がおられましたら、
是非ともただ単に感じるだけで終わらさずに、
感じたことを小さくても良いので何か変化やアクションとして示していただいきたい。
そうすれば、またそこから少しずつでも新たな種は蒔かれるはず。
生産者からのバトンは、消費者に渡れば終わりではありません。
もっともっと伝えていかなきゃいけない裾野は広いんです。
ほんの少しのご協力を、どうか宜しくお願いします。

最後になりますが、
農業家の廣瀬さんや、塩焚き小屋の今井さん、
彼らのように活動そのものが強いメッセージとなる人もおられれば、
僕ら小さな町の小売販売の店だって、
今回の試みのように物を売ること以外にも担える役割があることを知りました。
それもこれも、1年も試みにお付き合いいただき、
この日、お客さんに提供できるまで導いてくださった廣瀬さんのおかげです。
していただいた数々の御厚意に見合うだけの何かをお返しできたと思えないことが、
唯一本当に悔しいところではありますが、
本当に、言葉では言い尽くせない感謝の気持ちでいっぱいです。
ありがとうございました!
by monsieur-enfant | 2011-08-02 18:45 | 滋賀県 日野町 廣瀬さん