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なないろめがね

また会う日まで。

皆さん、パリのお話は楽しんでいただけてるでしょうか?
観光案内でもない、グルメブログでもない、
また違った角度から見るパリ、そしてその街に魅せられた人間の想いが、
少しでも拙い文章や写真を通して届けれたら・・・、と頑張って書いてます。
しかし!結構書いたつもりが、結局まだ一日終わっただけ(笑)
どんだけ長くなるんやろ・・・と、恐ろしくなってきます。

ということで、ちょっと一息。
ここで、先日閉店となったお店のことを少し書かせていただきます。

22日の土曜日を最後に、
8年にも上る本町での営業を終えられた、「フール ドゥ アッシュ」。
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その前日と最終日に、微力ながら手伝いに行ってきました。

天野シェフとの出会いは10年以上前。
何もかも中途半端だった僕に、フランス行きを決断させてくれた人物。
モノ作りの思考、精神性、組み立て方、
技術以外のベースは、全て天野シェフに作り上げてもらったもの。
そして、それを裏切らないよう、裏切らないよう、
振り返り、振り返りやってきたような気がします。

今ここ岸部でこんな店をやってますが、
その大きな糧になったのは、やはり天野シェフ。
天野シェフに「なぁんだ、こんな店をしたかったの?」って言われたくなかった。
もしかしたら、「自分がこうしたい」というより、
「天野シェフに食いついていきたい」、
そういう気持ちの方が大きかったのかもしれません。
モンテベロなんて、まんまその通りです。
パティシエの天野シェフ。僕はそのお菓子の大ファン。
一緒に働かせてもらってる際、
そのお菓子から幾度となくまだ見ぬフランスを見せていただいてました。
僕にとっての「パティシエ」は、天野シェフ。
静かな口調から、圧倒されるくらい熱いフランスへの情念が迸る。
深い理解と正確な解釈、経験に裏打ちされた技術と類い稀なる表現力。
そして何より、本国への真摯なオマージュと、
欠かさない「日本人であること」への戒め。

潔かった。カッコ良かった。
だからこそ、関西の「自称パティスリー」が腹が立った。
パティスリーとはパティスリーが名乗るもの。
名乗らなきゃいけない屋号ではないわけです。
ブーランジュリもそうですが、そこには文化や在り方が浸み込んでいます。
僕らが到底理解できないような長い歴史の中で営まれてきた重みがあります。
だからこそ、理解できないからこそ、
その重い重い底辺から潜り込んで表現するべきじゃないのか。
それを軽い上っ面だけペロッと舐めたような、
「時流」で片づけられた「パティスリー」の何たる多かったことか。
更に、そこを理解できるお客さんも限りなく少ない。
逆に、出始めの頃なんて「ブーランジュリと名の付くところ、
パティスリーと名の付くところ、それが美味しいお店の見分け方」、
そんな馬鹿げた風潮もあったくらい。
そりゃ店側も見す見す違う名前名乗りませんよね。
お菓子をおいてれば「パティスリー」、
お菓子を作れば「パティシエ」、
そんな様を傍から見てて、
赤面するくらい恥ずかしくなるのは僕だけでしょうか・・・。

モンテベロは正直、そんな時代への当てつけに近かったですね(笑)
「パン屋にこれをやられて何も思わなければ関西の菓子屋は終わりだ」、
それくらい思ってました。だからこそ不必要なくらい頑なに挑みました。
結果、理解されずにどえらいしっぺ返しを食らうことになりましたが・・・。
でも、それくらいパティシエという仕事を愛してました。
それくらいパティシエという仕事を尊敬してました。
その仕事を、馬鹿にしたような店が許せなかったんです。
それもこれも、天野さんが就いてた職業だったから。
そして、「天野さんに、どう思われるのか」という指標は、
モンテベロに対しても強く明確な基軸となっていました。

よく「岩永さんはブレないね」、そう言っていただくことがあります。
違うんです。僕自身、そんなに意思の強い人間じゃありません。
近くに、本当に身近に、素晴らしい職人との出会いがあったからなんです。
その背中を見失わないように走ってるだけで精一杯。
ブレないんじゃない、ブレれない。追いつけないから走り続けるしかない。
脇目など振ってる余裕などないのが正直なところ。
成りたいんです。何年かかっても。いつか、天野シェフのような職人に・・・。


最後の営業の前日。
残念ながら最後まで仕事を終わらせれず、
終電の時間もあるので帰ることに。
その後に残った仕事を、当たり前のようにご夫婦二人でこなす姿。
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これを8年やってきた。
こんな毎日を8年繰り返してきた。
自分たちの日常の多くを犠牲にして、
夜中まで、時には明け方までかかって、
ただただお客さんを迎え入れるために。
手伝う手が何度も止まった。
その仕事の一つ一つに刻まれた時間があまりにも重過ぎた。
胸が苦しくなるくらい絞めつけられた。
「あと一日、今日が最後の仕込み。今まで一人で踏ん張ってきたのに、
やはり最後まで天野さんが一人でするべきなんじゃないか・・・・」
と、思う気持ちもあることを伝えるや否や、
「いやいや、手伝って・・・。」と、心の声が(笑)
はいはい!明日もやらせていただきます!!



・・・と、その日は、いつもと変わらずやってきた。
感傷に浸る間もなく準備に追われ、
いつもと違うのは今までこの店に携わった人たちが手伝いに来てたこと。
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人数が足りず閑散としてた広い厨房も、今日は活気があります。
「いつ以来だろ・・・」と迂闊に遡ると、
うっかりオープンまで遡らなきゃいけなくなるくらい久しぶりの光景なんですよね。

「こんなの初めて」
天野シェフが呟いたのは、開店前の行列のこと。
周年などで並ばれることも多々ありましたが、この規模は初めてとのこと。
思い返せば満を持して挑んだオープンの日も、
「え?台風ですか?」ってくらい、土砂降りの雨だったのを思い出します。
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その後、列は途切れることを知らず、
やっと最後尾が見えたのは、開店後3時間以上経ってから。
早々に、パンはスッカラカン。
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それでも、ほとんどのお客さんの目的は、アッシュに触れに来ることでした。
少ない商品でも、あるものならと嬉しそうに買っていかれる方々。
一時間ほど待たなきゃいけなかったのに、
「来年、楽しみにしています!」と、声をかけて帰られる方。
一朝一夕では築けない、シェフとマダムが積み重ねた日々によって作られた景色。

僕は「いらっしゃいませ」も、「ありがとうございました」も、
手伝いに入った2日間、一度も言えませんでした。
もしそれでお客さんに悪い印象を与えてしまってたら申し訳ありません。
厨房に立ってる以上、店の一員であることは十分わかっているつもりです。
ですが、全ての「いらっしゃいませ」、全ての「ありがとうございました」、
やはりマダムとシェフが言うべきだと感じました。
なぜなら、「いらっしゃいませ」や「ありがとうございました」の中に、
込められたメッセージがたくさんあった特別な日だと思ったからです。
そしてお客さんからの静かな会釈ですら、
その中にたくさんの想いが詰まってるように感じたんです。
それを、僕が声をかけてしまうことで、迂闊に横取りしたくなかったんです。
全部2人に受け取って欲しかったんです。
その一つ一つが、僕には花束やお手紙や表彰状のような気がして、
とてもじゃないですが、声を発することができませんでした。


そんな特別な日は、いつもと変わらず時間を刻み、
「閉店」の時を迎えることに。
「なんだか実感無いね」と、天野シェフの第一声。
「明日休んで、また週明けから普通に店開けてそうだよ」
その言葉に、まだ実感が伴わないまでも、少し寂しさが滲んでいました。
マダムは相変わらずで、
「ミルティユのコンフィチュール、あれはすぐに炊けたはず」と、
それがあれば出せた商品を、
朦朧としながら「無理」と拒んだシェフをまだ責める(笑)
「自分は、接客が苦手」と天真爛漫に話すマダムですが、
フラフラのシェフに鞭打ってでもお客さんに出したいんだという気持ちが、
どう見ても苦手とは思えない苦手な接客を支えてたんじゃないでしょうか。
いつ行っても、ほとほと疲れてたとしても、
とびっきりの笑顔で持て成してくれたマダム。
きっと、個性的なパンと共に、皆さんの心にしっかり焼き付いてることでしょう。

大好きなシェフ、大好きなマダム、
とりあえず、お疲れさまでした。しばらく、ゆっくり休んでください。
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そして、その2人を含めた大好きなお店を支えてくれたスタッフの方々。
本当にありがとうございました。そして、本当にご苦労さまでした。
皆さんの「アッシュが好きだ」って気持ちが、少ない人数ながらも、
それを感じさせないエネルギーや引力となっていたんだと思います。
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さほど僕も「最後」だという実感もなく、
そもそも引退するわけじゃないのにシンミリするのも違うし、
シェフやマダムに気の効いた言葉もかけれずシュクレに戻ることに。
その帰り際、更衣室で脱いだTシャツから「ふわっ」と、パンの匂いが漂いました。
「あ・・・・、アッシュのパンの匂いだ・・・・」
そう思った瞬間、猛烈に寂しくなってしまいました。
「天野さ~~~ん!」って、戻って泣きつこうかと思いましたが止めました。
泣きついた僕を支える体力がもう残されてないことは分かっていたので(笑)

しばしのお別れ、ですね。
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春まで、この8年間出来なかったことをいっぱいして、
見れなかったものをいっぱい見て、感じれなかったことをいっぱい感じて、
数段パワーアップして戻って来てくれることと思います。
その日を、心から楽しみに。再会を、心から楽しみに・・・。













P.S 私事ながら、
    最後まで別れを惜しんで残ってたお客さんから、
    とても素敵なプレゼントをいただきました。
    促され、お互い照れながら写った一枚。
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家宝にしまっす!
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by monsieur-enfant | 2012-09-26 01:39 | とりとめなく・・