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なないろめがね

戻るべき場所

夏休みの記事の前に、
夏休みの前の記事が数点。
が、それらをすっ飛ばして、まずはこの記事を書かないと・・・。

以前、ブログで紹介したブーランジェがお店を構えることになりました。
開店の知らせのメールが来たのは直前で、僕はまだ夏休みを東京で過ごしていました。
その日は8月24日の月曜日。場所は南船場。
店名は「サミー・プー」と言います。
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僕が伺ったのは写真の通り、日が暮れた8時前くらいやったかな?
混雑は避けたいけど何とか当日に顔を出したくて、夜にやってきました。
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こう見ると広く見えますが、以前ブログで書いたように8坪くらいしかない小さなお店です。
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時間も遅く、完売した店内ですが、見えてる部分が店内の全てです。
「どこどこでシェフやってはった・・・・」と言えば、
おそらく誰しも「あ~!」と思い浮かぶお店のシェフでした。
本人がおそらく語りたがらないでしょうからあまり言いませんが、
本当に波乱万丈の人生を送ってこられた方です。
降りかかる不幸や、負わされる濡れ衣、追い討ちをかける病や身に覚えの無い借金。
ドラマや小説ならまだしも、現実に起こり得るのかと耳を疑うことが続きました。
苦しみながらも、不本意ながらも、シェフとして店を継続させるために死力を尽くし、
結果、オーナーに裏切られるという身も心もズタズタになる出来事もありました。
その後、いろいろ見失ってた時期は多くの方にも迷惑をかけたかも知れません。
満身創痍の中、指まで大怪我をし、もうパンの世界には戻れないだろうと、
下水や汚物処理の仕事を数年繰り返してたそうです。
その間、共通の知り合いの方にも「岩永君には言わないで下さい・・・」と、
いつか胸を張って会えるときまでという想いを秘めて働いていたそうです。
僕は音信普通の友人の連絡を、ただ待つしかできませんでした。

彼は本当に純粋な男です。
あまりに純粋すぎて、他人と上手く調和が取れないこともありました。
それでもただ純粋にパンを愛した男でした。
やっぱり彼は、帰ってきました。自分の、戻るべき場所を見つけて・・・。
今、彼は一生懸命パンを焼いてます。
パンに向き合えることに、身体いっぱい喜びを感じているはずです。
雇われシェフという立場なので、
もちろんお店も店名も商品も、全部思い通りになるわけではなかったでしょう。
ただいずれは「彼のパン」を焼いてくれる日が来るはずです。
持ってる知識も能力も情熱も、おそらく僕は彼には勝てないと思います。
でも僕は、自分の少ない能力を精一杯発揮できるステージを自分で作りました。
いくら能力があっても、その一部しか出せなければ意味がありません。
それは他人に用意されるのではなく自分で切り拓くものです。
他人に求められるのではなく、自ら表現していくべきものです。
これからも沢山の葛藤と闘うことになるでしょう。
でも、楽しいでしょ?辛いけど、楽しいでしょ?
それが、好きなものを生業にするということなんじゃないですかね・・・。

まだオープン間もないお店ですが、
どうぞ長い目で見て応援してあげてください。
気にかけていただき、たまに近くを通った時にでも寄っていただければ嬉しいです。
お花を抱えて訪ねた時、僕の手を取り、崩れそうになりながら繰り返した言葉、
「嬉しい・・・。一番来て欲しかった人に来てもらえた・・・。」
どんな想いで僕との連絡を絶ってたのか、どんな想いでパンから離れてたのか、
そしてどんな想いで今帰ってきたのか・・・・、
いろんな想いに溢れた言葉に、胸が詰まりました。
そしてまたこうしてパンと共に生きはじめた姿を、
誰よりも、誰よりも嬉しく思うのでした・・・。
by monsieur-enfant | 2009-08-28 03:40 | サミー・プー