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なないろめがね

想いには、想いで・・・

待ち合わせは10時。
起床もピッタリ10時。
あかんね。うん、あかんあかん。

女子大に移動して、仕込んだパンたちのご機嫌を伺いに。
「うん。ぽいね。」
低い温度に管理した部屋で休んでる、
いつものシュクレのパンっぽいって意味ですが、
正直焼き上げるまでわかりません。
相手は生き物です。
いつものように仕事しても、必ず・・・という保障はありません。
とくにうちは、どこでも同じ数値を計算できるイーストではないので、
窯入れの時には祈る思いです・・・ってか、祈ってます(笑)
だから毎日できるんですけどね。
だから毎日会えるのが楽しみなんですよね。
当たり前じゃないから、今でも嬉しいんですよね。

簡単な打ち合わせも終わり・・・・と見上げると、
想いには、想いで・・・_c0116714_33003.jpg

えっと、K.B.WORLDて書いてあるのが、今回の主催協会。
韓国のパン屋さんのオーナーさんとか、大学の教授さんとかで構成されてる会ですね。
で、その下には多分「ル シュクレクール 岩永 歩シェフによる・・・」
「天然酵母パンの講習会」
あれ?・・・そういう主旨?
聞くと、「気にするな」とのこと。
こんな立派なの作ってもらってデカデカと書いてるんですもん、気にしますよ(笑)
でも今回は作り方云々を教える時間を割くつもりは更々ありません。
僕が作るのは天然酵母を使ったパンだし、
何してるかわからなければ意味がないからレシピも配ります。
でもそんな付け刃、なんにもなりませんから。
前日ここに来たときに、一人のシェフが近づいてきました。
めちゃイケメンでした。
日本でも働いてたらしく日本語は上手。
その頃雑誌で見て、僕のことも知ってくれてた様子。
「日本で働いて、フランスにも行って、やりたいパンも見つけてきた。
半年前にお店をオープンして、おかげさまで繁盛しています」とのこと。
「でも・・・結局自分のやりたいパンはやりきれなかった。
今の韓国では無理です。だって、生活もあるでしょ?
・・・・迷ってます。このままでいいのか。
お客さんには来てもらってますが、すごいストレスがあるのも確か。
今の店のまま続けるのか。今の店を変えるのか。別のお店として作るのか。
どうしたらいいですか?」
いい目をした職人でした。めちゃめちゃ真剣に詰め寄ってきました。
胸に詰まってた憤りを、初対面の僕にぶつけてきてくれました。
想いには想いで返すのが僕の信条。
レシピのような紙切れで、こういう想いの何が解決するでしょうか?
パンの作り方を説いて、何が伝わるでしょうか?
「明日、僕が話す言葉に耳を傾けてください。」

「楽しみにしてます」と言って帰っていったシェフも駆けつけてくれました。
先に言っておきます。
パンの写真は一枚もありません。
忘れてました(笑)
でも、シャバタ、バゲット、セーグルの生地から、
それぞれ何種かの変態パンを敢えて作りました。
まず、「こうじゃなきゃいけない」っていう既成概念を取り除きたかったんです。
僕がフランスで感じたことの一つ、
「パンとは、楽しくて自由なもの」ということを伝えたかったんです。
そして、パンを作ることがパン職人の仕事ではないということ。
パン職人とは、パンを通して表現する仕事やと思うんです。
作ることだけなら機械でも出来ますし、家庭でも上手に作られる方もおられます。
でも僕らは「創る」んです。
「作る」作業とは根本から違うんです。
自分を表現して初めて生まれる存在意義。
そこにこそ「誰か」じゃなく「自分」が在ることの意義があるんじゃないでしょうか。
僕は誰にも気にかけられない小さな存在かも知れません。
大きな地球上では埃くらいの大きさだと思います。
でもね、それでも大きく手を振ってジャンプしながら叫んで生きていたい。
「僕はここにいるんだよ~!」って。

想いには、想いで・・・_c0116714_438330.jpg

正直、後半ばてました。
焼き上げたパンには興味をもってくれたようで、
「食べてもいいですよ」と言うと、みんな群がってくれました。
僕は、店以外でシュクレのパンを焼いたのは今回が初めてです。
異国の地で、いつも岸部で見てるパンが並んでるのは、なんだか不思議な光景でした。
そして、岸部でみなさんに喜んでもらってるパンが、
ここ韓国でもみんなを喜ばせてるのを見て、
なんだか嬉しくなりました。
うちのパンを好きな人が見たら喜んでくれるんじゃないかなぁ・・と思って眺めていました。
今回はプロ相手のセミナーでしたが、会場が女子大ということもあり、
ここでパンやお菓子を学んでる生徒の選抜メンバーも参加してくれました。
そのうちの一人がおもむろにバゲットを掴んで、
端っこの尖がった部分をかじったんです。
「今回、セミナーを引き受けて良かった・・・」と思えた瞬間でした。
「景色」が見たくて岸部で始めた四年前。
パリジャンのように家まで待ちきれずバゲットをかじったり、
子供がパン オ レザン食べながら歩いてたり、
そんな景色が見たくてお店を始めました。
その「景色」が、ここ韓国でも見れたこと。ホントに嬉しかった。
そしてここでもその景色を見せてくれた僕のパンたちに、
「ありがとう」
って、思わずにはいられませんでした。

最後は駆け足でしたが、何とか6時に終了。
役に立てたのか心配だった僕に、
ツーショット写真の連続という思いがけない形で応えてくれた皆さん(笑)
「一番若かったけど、一番いい感じ」って、
片言で伝えてくれた人もいました。
韓国に講習で来た人の中では最年少だったそうです。
先に述べてたイケメンさんも来てくれて、
「胸の痞えが取れました。すぐには出来ないかもしれないけど、頑張ります」
って言ってもらえました。
シュクレにも遊びにきてくれるみたいです。
結局は「覚悟」やと思います。
何が正しいのか、何が成功なのかはわかりません。
秘訣なんてものはないんじゃないでしょうか。
すごい売り上げやのに同業者から評価されない店もあるし、
めちゃくちゃ良いパン作ってるのに、お客さんに来てもらえない店もある。
ただ確かなのは、
自分が満たされてないのに、お客さんを満たすことは出来ないってこと。
リスクやデメリットの無い人生なんてありません。
それを恐れていては何も始まりません。
でもね、リスクやデメリットって、意外と一般論。
多くの人に当てはまるように出来てるものなんです。
それに比べて「大切なもの」って、人それぞれ。
そっちのほう、大事にしてほしいなぁ。

決断は答えではありません。
決めることが目的ではないんです。
正しい選択だったと思うも思わないも、
決めた後の生き様のほうが大事なんじゃないでしょうか?
「この選択で正しかった」と思える生き方をするほうが大事なんじゃないですか?
失敗をしたとき、その選択を責めることは簡単です。
成功したとき、その選択に安堵するのもいいでしょう。
でも案外、結果は目先に用意されてないことのほうが多いものです。
そして、目先の結果に走った人間に、良い結果は用意されないものです。
確かに、すぐに答えがでないことは不安にもなります。
心が折れそうになることもあるでしょう。
それを支えるのが「信念」やと思うんです。
その揺らがない大きな幹を心の真ん中に持ててるかどうか。
正直、そんな幹なんて無いほうが楽やとも思いますよ。
僕みたいに「生意気や」とも思われることもないでしょうしね(笑)
でもね、大きな幹を心に携えるのに、
みんな人には言えない苦しみを越えてきてるんです。
「努力」なんてカッコイイ言葉には当てはまらないような時間を越えてきてるんです。
だから正確には「揺らがない」のではなく、「揺らげない」んです。
理想や夢という、煌びやかな世界を描いて進む力より、
むしろ自分を否定したくない意地や、それを異端と捉える周りへの反骨心。
そんな泥臭い感情が根底にあるから、簡単には「揺らげない」んです。
自分の逃げ道を消しながら歩いてきてる人たちにとっては、
「決断」は遠い過去。現在は既に必然。
あるのは強い信念と、貫く覚悟。
もう一つ大事なのは、そんな境遇をも喜んで過ごせる「ドM」っぷり(笑)

ちなみに僕は、いたってノーマルですので・・・。
by monsieur-enfant | 2008-08-28 00:29 | 韓国手記´08求愛