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2010年 07月 22日
“必然”の輪廻
世の中のほとんどが必然で構成されてると思うわけなんです。
もちろん理不尽なこともあり、それだけではない部分もありますが、
日常という枠組みに関しては、ほぼ必然で構成されてると思うわけです。
いや、むしろその必然の出来事や出会いを、
振り返ったときに必然だったと思える明日を選ばなきゃいけないんでしょうけどね。
目先に捉われ誤魔化して生きるも、未来への布石だとよじ登るも、
終わらない必然の連鎖を導くのは良くも悪くも自分の意思次第。
一つ一つの選択は巡り巡って蓄積され、全て自分自身を創る要素となっていく・・・・
それもまた、必然というわけです。
そしてこの日、日々繰り返される現実に滅入り失望しかけてた僕に、
これ以上ない形での必然が現れてくれたのでした。

連絡を受けたのは2週間ほど前。
京都に来るから一緒に食事でも・・・・ということになり、
知り合いがこの春から働いてる、このお店をチョイス。
中京区 「御料理 光安」

京町屋をリノベーションして作られた店内は、
初めての来店でも懐かしさすら感じる風情。
お昼、夜、共に1日限定2組だけの営業です。

「あれ、お肉出てこなかったなぁ・・・」って思ってたら、
ここお野菜に力入れてはるお店だったんですね、後で知りました(笑)

待ち合わせてから30分、
2年ぶりに会うその人の顔が、
ようやく思い出と一致してきたころ、
お料理が運ばれ始めます。

結構飲むと思ってた彼は、時差ボケで寝不足なようで、可愛く梅酒でした。
山科茄子

うん、しみじみ旨い。
茄子、好きです。
鱧の焼き霜

ん?骨、無いっすよ・・・?
鱧、今まで「季節感」を味わう程度にしか思ってませんでしたが、
香ばしさと相まる鱧の旨みが口中に広がります。
さっそく日本酒に移行。

何飲んだっけ・・・・先日の話やのに。

夏野菜

おくら、丸茄子、トウモロコシ、トマト、じゃがいもはインカの目覚めかな?
一つ一つのお野菜のお味を大事にした、
堅実な仕事と手間隙を感じる一品です。
アワビのお吸い物

あ~~~、沁みる。
添えられてる肝も旨い。
彼もアワビは好物らしく御満悦。
鮎の炭火焼

うわ・・・・旨い以外言葉が出てこない・・・・と満喫していると目の前では、
頭を捥いで、身を揉み揉み、骨を抜き去ってやっと食べ始める姿が・・・。
一応、頭から食べるんだと説明したんですがダメみたい。
仕方ないですね、彼、フランス人なんですよね。
卵黄の味噌漬け

キレイですね~。
「フェラン・アドリアの料理を思い出す」って言ってた彼。
「そんな大そうなもんじゃないですよ」とだけ言っておきました(笑)
いやでも旨いっすよ。
味噌の風味が纏わりついたネットリ卵黄に、
日本酒の原酒も少量合わせてるみたい。
たまらず「黒龍」を。

ちょっとボケたのを誤魔化して涼しげに(笑)
碗が出てきました。

お水を打ってるのは、誰も触ってないことの印なんだそう。
昔、碗に毒を盛られることが多かったための安心の証ですね。
蕎麦掻の白味噌碗

絶妙・・・・。
蕎麦掻の食感から白味噌の甘みまで、
全てが一環した思想から生まれた調和。
ドンっとお出ましになったのは、

黒豆の枝豆と鰻の炊き込みご飯

色も涼しげ。鰻の香りが鼻の周りに漂う。

食器のセンスも素敵です。

お漬物も美味しいです。

お味噌汁もね。

途中で多少ネタバレしましたが、
同席してるのがフランス人なので、
話し出したら止まらない・・・。
席に着いて、飲み物頼むまでもかなり喋ってましたから、
その調子で結構時間が経過してるのにここで気づく。
さ、甘味のお出ましです。

井戸水の葛きり

黒蜜とプラムのピュレ、2種類お好きなほうにつけてお楽しみを。
巨砲とじゅんさい

終わりと思いきや、〆にもう一品。
う~~ん、じゅんさい微妙やなぁ・・・。
巨砲と食べるとまだ良いですが、〆たいのに前菜に気持ちが引き戻されます。
ビネガーのジュレが後口さっぱり。

お茶飲んで、上を見上げて・・・・、

ふ~~~って、ゆっくりほっこり過ごしたかったんですが、
結構帰りの電車がギリギリになってきたんで急いで撤退。
タクシーで彼をホテルに送り、一路京都駅へ。
もちろん2週間くらい前からこの日が来るのはわかってたわけで。
でも、この日が終わってから改めて思う、この日の必然性。
日本で会えるなんて思ってもみなかった。
一緒に食事をするなんて思ってもみなかった。
彼は、僕がパリで一番好きなブーランジュリのオーナーシェフ。
ひょんなことからの来日だったんですが、一晩時間を割いてくれました。
まず同業者と話すことがない僕。
熱くパンの話を語る他人の姿を久しぶりに見た気がします。
なんだかその姿を「いいなぁ・・・」って羨む自分がいました。
彼のような迸る情熱を、最近は削り取られる日々の中で、
そんな自分の姿はしばらく見れてなかった気がします。
「やっぱり、こうありたい!」、そう素直に思えたのは、
その相手が自分が尊敬する相手であったという幸運が重なったからだと思います。
「自分はまだまだやなぁ・・・・」と思い過ごせる時間の清清しさ。
自分で言うのもなんですが、
少年のような澱みのない目で食いつくように彼の姿を眺め、
耳と心が直結してるかのように、彼の言葉の一つ一つに鼓膜と心を震わせていました。
正直、京都で会ってることが信じられない“偶然”。
でも、打ちひしがれてるときに現れてくれた“必然”。
いや、わかってるんですよ、頭では。
足を引きずってでも地べたに這い蹲ってでも前に進まなきゃいけないことなんて。
でもね、やはり燃料を燃やさずして推進力は生まれないんですよ。
甘えだと言われても、すっからかんに乾いてしまっては前には進めないんですよ。
以前に読んだ話で、ずっと心に留めている言葉があります。
「周りに蝿がたかるのは、あなたがウンコだからです。
蝶が群がるその先には、必ず花が咲いているのですから」
周りを嘆くよりも、その周りにいる人たちを引き寄せてる自分がどうなのか。
所詮、自分がウンコだから蝿がたかってるんだ。
花にならなきゃ、蝶が飛んできてくれるような、そんな花にならなきゃ、
周りがダメなんじゃない、その中心にいる自分がダメだから悪いんだ・・・、
そう自分を戒め戒めやってきましたが、
いつしか自分で自分を追い込みすぎてたのかも知れませんね。
息が出来なくなっちゃってました。
僕だって、まだまだまだまだ成長しなきゃいけない未熟者。
職人としても、人間としても、もっと前向きに、もっと貪欲に、生きていかねばなりません。
この日、たくさんもらえた良質のエネルギーは、
自分が前に進む燃料としてはもちろんですが、
何らかの形で店にスタッフに還元できたら良いなぁ・・・って思います。
それは結局、お客さんへも繋がっていきますからね。
僕らはプロですから、
何がどうあろうと見失ってはいけないのが「お客さんに喜んでいただくこと」。
繰り返す日常の中で気持ちが荒み、少し忘れていたのかも知れませんね。
そうなるとスタッフは僕の顔色を見て過ごすことになってしまいます。
萎縮しミスを恐れる環境では、到底良い仕事など生まれません。
もう一度みんなの目線をお客さんに向け直し、
スタッフみんなでお客さんに挑めるよう頑張ります。
店のみんなが、
この日のムッシュ ヴァッスールのように、
キラキラした顔でパンの話ができる日のために・・・・。
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by monsieur-enfant
| 2010-07-22 04:12
| 御料理 光安
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